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東京高等裁判所 昭和31年(ラ)606号 決定 1956年10月10日

抗告人 国安市太郎 外一名

主文

抗告人国安市太郎の抗告を棄却する。

抗告人上沢信正の抗告を却下する。

理由

一、抗告の理由。別紙記載のとおりである。

二、当裁判所の判断。

(一)  先ず抗告人上沢信正の抗告の適否について判断する。競売法による競売手続における利害関係人の範囲は競売法第二十七条第三項にこれを明示しているから、競売手続に対して事実上何等かの利害関係のある者でも同条項の列挙に該当しない者は競売手続の利害関係人ではない。しかるに記録によれば右抗告人は、単に本件競売の目的物件につき執行保全のため仮差押をなしたことが認められるに止まり、不動産上の権利者ではなく、その他同条項所掲のいずれにも該当しないから、本件競売手続の利害関係人とはいえない。しかして競落許可決定に対しては利害関係人競落人又は競買人でなければ抗告ができないことは競売法第三十二条第二項民事訴訟法第六百八十条により明らかであるから、右抗告人のした本件抗告は不適法として却下すべきものである。

(二)  次に抗告人国安市太郎の抗告理由について判断する。競売期日は競売法第二十七条の規定により裁判所が職権で定めるものであるから、一旦定められた競売期日を変更し又は変更しないことも裁判所が職権で定めるものと解すべく、利害関係人に対し期日変更申請を許した規定はなく、競売期日は法律上の売却条件でもないから、総ての利害関係人が競売期日の変更を合意しても、裁判所はこれに拘束されることはない。したがつて原裁判所が右抗告人及び債務者の競売期日変更申請を許さないで本件競売手続を続行したことは、その措置の当否は別としてこれを違法とすることはできない。その他本件記録を精査しても、原決定には取消の事由となる違法の点がないから、右抗告人の抗告は理由なしとして棄却すべきものである。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 斉藤直一 坂本謁夫 小沢文雄)

抗告の理由

一、抗告人国安は抵当権に基き本件不動産の競売申立人である又抗告人上沢は本件不動産に対する仮差押権者で何れも不動産上の利害関係人である。

そこで相手方細井は債務者兼所有者であるが、抗告人国安に対し墨田簡易裁判所昭和三一年(ノ)第四四号債務協定調停申立をなし第一回五月七日夜間調停期日に双方出頭調停をやつたが第一回では成立せず次回五月廿八日続行することゝなり、その際本件不動産の競売期日が五月十五日となつて居るので、調停委員より不動産競売は一回延期されたしと懇請されたので抗告人国安は調停に協力する意味に於て之を承諾し調停委員等とも協議し一ケ月之を延期することに約束し直ちに不動産競売延期願書を作成し当事者双方連署し之を相手方をして千葉地方裁判所に届けしめた。

二、千葉地方裁判所に於ては五月九日右延期願書を受理されて居る。然るに延期許否に付て何等の通知もなく五月十五日の期日に競売を断行され五月十七日競落許可の決定をされて居る。

三、競売の延期は利害関係人の合意により裁判所に申出でたる場合は裁判所は原則として之を許すべきものと信ず(競売法三〇条、民訴六六二条)然るに延期書を受理されてから七日の期間存するに申出でたる利害関係人に何等の通知なく競売を断行されたことは職権の行き過ぎではあるまいか。

四、抗告人等は延期されたものと信じ競売に関与する機会を失い、抗告人上沢は仮差押債権者として、又抗告人国安は墨田簡易裁判所に於ける調停事件に付何れも損失を受くる結果となる。

依て右競落許可の決定は之を取消されたく抗告に及んだ次第である。

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